八重山毎日新聞社

　さきほど、異様なものをみた。取材の帰り道、駅構内でのできごとだった。目的地に着いたので、ホームから改札近くに移動すると、上りエスカレーターの入り口付近に少しの人だかりがあった。みんなエスカレーターを見ている▼混み合っているのだろうか。目をやると外国人観光客風の男性が上りエスカレーター2、3歩目のところであおむけにひっくり返っていた。ふだん見ない光景にぎょっとした▼体の向きは足が上、頭が下にある。背中を丸めながら起き上がろうとしている。エスカレーターの階段が上がると体重で体は下がるので、ずっと同じ場所にいる▼助けないと危ない。思わず駆け寄ったが、同じく走ってきた別の男性が早く到着した。エスカレーターは1人分の横幅しかないので、救助はその人に任せた。助けられた男性は車両乗り場のほうに向かった▼それにしても、見ていたのに助けない人もいるものだ。何人もの人がその場所を通ったはずなのに。海で溺れた子どもを助けるわけでもなければ、特殊詐欺にだまされている高齢者を見破るわけでもない。決して難しい救助ではない▼この状況を素通りし、傍観した人がいると思うと空恐ろしい。学びがあるとしたら「人は人を助けるとは限らない」といったところだろう。世も末だ。（玉津盛昭）