ヤシガニ、大型オス個体減少 遺伝的多様性も明らかに
- 2020年06月26日
- 自然・科学
国内では先島など琉球列島に生息するヤシガニの資源状態を明らかにしようと県立芸術大学などの研究グループが調査を進めてきた結果、大型のオス個体がほとんど観察されず、大型オスに対する高い捕獲圧により性比に偏りが生じていることが分かった。繁殖活動に影響している恐れがある。一方で遺伝的交流が広いことも判明、研究グループは「各地域で適切に資源管理が行われれば、個体群の縮小が進んだ場所でも将来的に幼生の加入によって回復につながる可能性がある」としている。
ヤシガニは、近年の過剰捕獲や開発など生息環境の悪化によって資源量が減少。環境や沖縄県のレッドデータブックで「絶滅危惧Ⅱ類」、水産庁発刊の野生水生生物に関するデータブックで「希少種」に位置付けられている。
県立芸術大学の藤田喜久准教授らの研究グループは2014年から15年にかけ、伊江島と宮古島、来間島、水納島、石垣島、鳩間島、西表島、与那国島で調査を実施。30個体の性比とサイズのデータ解析を行った。
その結果、水納島以外では胸長4㌢以上の大型のオス個体はほとんど記録されず、全体として性比がメスに偏っていた。研究グループは「このような傾向は繁殖行動の変化や配偶子数の減少を通じて再生産に悪影響を与えることが分かっている」と指摘する。
藤田准教授によると、オスはメスより同じ年数でも1.5倍大きくなる。メスは自分より大きなオスを繁殖相手に選ぶため、大きなオスがいないと繁殖できなくなる恐れがあるという。
一方、非致死的方法で10数個体から採取したサンプルを元に、ミトコンドリアDNAの配列を用いた解析に加え最新の集団ゲノム解析の結果、全体として幼生の行き来による生息地間の結びつきが広く維持されていることも確認された。ヤシガニは、幼生期に1カ月程度、プランクトンとして海中にいることが知られている。
ただ、藤田准教授によると、石垣島と水納島では交流が比較的制限されている傾向が出ており、「小さな海流の影響があるかもしれない」との見方を示した。
今回の調査結果を受け、研究グループは「一部地域(宮古島市、多良間村、石垣市)で定められている保護条例などによる保全策を、琉球列島全域に拡大して適用する必要がある」と提言している。
研究成果は22日、学術雑誌「サイエンティフィック・リポーツ」(電子版)に掲載された。
ヤシガニは、オオヤドカリ科に属する世界最大の陸性十脚甲殻類で、国内では主に沖縄県以南の島しょに生息している。
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