ひきこもる葛藤・家族の苦悩
- 2016年12月17日
- 社説
■引きこもった彼も今や60代半ば
首里城近くの友人宅を訪ねた。その時も家は閉じられていた。20代後半のある日突然ひきこもった彼も今では60代半ば。その間一度も会っていない。ひきこもった当座周りの誰もが戸惑った。心当たりがなかったのだ。仲間でいろいろ推測し合ったが、納得できるものは一つもなかった。いつしか彼のことは話題に上らなくなった。
隣家の庭に老婆がいたので彼の消息を尋ねた。すると時々しか帰って来ない、病院にいると話した。百歳の母親は長女の家を行き来しているという。隣家の息子がやって来た。筆者が訪ねるのを何度か見ているので同情したのだろう。友人の姉に携帯電話で僕の来訪を知らせ、電話を僕に渡した。
電話の向こうの声は疲れているように耳に届いた。弟が希望すれば連絡しますと言って電話を切った。隣家の息子は当てにならないから直接病院に行って会ったらいいと強く勧めた。姉から電話はなかった。
■支援チームの熱意と力量に期待
昨年2月の実態調査で石垣市の自宅や自室から出ない引きこもりの若者(39歳以下)は173人いると推測している。幸い市でも児童生徒の支援にとどまらず中学校既卒者から39歳までの自立や就労支援などを行う体制ができた。今のところ相談件数は多くないようだ。ひどく困窮しているのに支援に応じない家庭も少なくないらしい。母親の兄弟との接触さえ拒絶しひきこもるケースもあると聞く。
ひきこもりに陥るのはナイーブで優しい心の持ち主だろう。支援は温かく、根気強く接しつつ有効な手だてを講じ続けなければならない。かつて死者さえ出した戸塚ヨットスクールのような荒療治は論外だ。周到に少しずつ改善に導くことだ。支援員には支援に係る知識やスキルの向上が求められる。それでも対応の厳しいケースもあるだろうから自前の臨床心理士をチームに加えてはどうだろう。チームはより自信をもって支援に当たれるし、支援の整合性もとれて効果は高まるはずだ。
■当人の辛さ、家族の苦悩を思いやる
内閣府調査でひきこもりを脱した人にきっかけを聞いたところ「フリースクールに入学」「同じような人と会った」「医療機関や地域の支援センターを利用」といった答えが目立ったようだ。その上で支援や人的交流がカギを握るとしている。石垣市では支援員と医療機関の連携は充実しているだろうか。ひきこもりながら携帯電話等電子機器を使用する割合が高いと聞くが、インターネットで「同じような人」につないだり、外部との交流に導いたりする仕掛けを開発できないだろうか。
ところで支援対象は39歳までだが、40歳以上は捨てておいていいはずはない。親がさらに老いた時、彼らの生活はどうなるだろう。防衛費には惜しみなく金を注ぎ込むが社会保障関連の予算は切りつめる今の政治に彼らの救済など期待できない。加えて「不寛容社会」の到来だ。「自己責任」と突き放すどころか、働かない彼らに対する風当たりは強まるだろう。
ひきこもる者の葛藤、家族の苦悩は深刻だ。そのことに思いを寄せる市民が増えていくことが何よりだろう。彼らを孤立させてはいけない。
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