新庁舎「百年耐久」を考える
- 2018年04月14日
- 社説
■予算案可決されたからこそ
石垣市の新庁舎建設費を追加する補正予算が9日の市議会臨時会で可決された。これにより市は入札等の諸準備を進め着工を急ぐ。
ただ、予算が可決されたからすべてOKではない。なぜ「百年耐久」なのか、そのことに違和感と疑問を抱く市民もいる。
市議会では建設費用の算定について、それなりに説明されたかも知れない。一般市民は新聞を通してしか情報がなく、その新聞報道を読んでも疑問が解消されない。
災害時の拠点はわかる。だが庁舎の百年耐久を市民が望んでいるのか。建設予算増のあおりを受けて、市民が実現を求める他の事業が先送りされなかったか。
財源のうち市負担分は当然市民の負担だ。市は建設予算が可決されたればこそ、市民に対して説明責任を果たすべきではないか。
そのことによって全市民が等しく新庁舎の落成を待ち望む機運醸成につなげるべきだろう。
■耐震強度1・5倍とは
庁舎建設基本構想の概算建設費は50億円だった。現段階では約77億円。当初の5割増しの1・5倍である。
臨時議会で市は、ヘリポートと有料職員駐車場確保、津波一時避難所機能の追加、会議室・書庫の充実、百年間の使用に耐える耐震強度1・5倍の庁舎計画などによる敷地面積・延べ床面積の拡大、資材・人件費の高騰などによる社会情勢の変化を検閲費が高騰した理由に挙げた。
そのうえで経費縮減に努めるとしている。当然だ。
もろもろと挙げられた理由のうち、建設費高騰の最大の要因は「耐震強度1・5倍」だろう。
耐震強度1とは、震度5程度の地震にほとんど倒壊せず、震度6強から7程度の大地震でも人命に危害を生じない強度をいう。
耐震強度1・5倍になると、震度6強から7までの地震にも倒壊しない想定となる。ただし、熊本地震のように震度7級に2回見舞われると被害を受ける。
沖縄のような塩害の強い地域で、百年の供用に耐える建築物が実現可能か。完成から百年後を誰も検証できない。
■明和津波どう反映したか
過去の災害の経験から何を学ぶか。これは建築設計以前の基本中の基本だろう。当然、明和大津波なども十二分に検証されたに違いない。
昨年末、琉球大学や静岡大学、産業総合研究所等の共同調査グループは石垣島の津波堆積物トレンチ調査の結果、過去2000年に約600年周期で明和大津波と同規模の地震、津波が4回発生したことを発表した。
従来の400年周期説に代わるこの新学説通りなら、次の明和級の地震大津波は24世紀後半である。
気象庁の記録によれば明和大津波の際の地震は震度4、M7・4。地震による被害はなく最大遡上(そじょう)高30㍍の津波によって人口の3分の1が失われた。
旧石垣空港の海抜は26㍍。明和級津波の最大遡上高の範囲である。
もとより学説は覆ることがある。災害への備えも怠らぬほうが良い。これもまっとうな考えだ。
それでも疑問は残る。耐震強度1・5倍、なぜ百年耐久を求めるのか。市民のために働くのは建物ではなく人。市民が実現を求める事業は他にもある。
そもそも百年後の行政は現在の規模、形態のままだろうか。多様化する市民ニーズに業務量が増大していないか。
あるいはAI人工知能の進化によって業務内容が劇的に簡素化され、職員数も業務量も著しく減少していないだろうか。
未来社会は誰も正確に予測できない。だからこそ百年耐久の意味を考えたい。
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