主権者たる市民こそ判断を
- 2016年10月15日
- 社説
■市民の声聞かぬ政治の堕落
石垣市は今月下旬に陸自配備に関する公聴会を開催し、賛否双方の市民の意見を直接聞いたうえで、中山市長が可否を判断することを明らかにした。国庫予算編成前の年内とみられている。
そのため事前に子細を整理しておきたい。市側が言う「市長判断」の根拠は正当性を有するか。住民投票は「なじまない」のか。いずれも否である。
新たな基地建設は、すぐれて地方自治の問題である。これは辺野古や高江と通底する構図であり、市民は自らの生活がかかる以上、主権者として意見を述べる権利を有する。
市民が意見を述べるのは「なじまない」という認識のずれは、民主主義と地方自治を否定するものであり、市議会与党会派も同じだ。市民の声を聞こうとしない姿勢は政治の堕落である。
■陸自配備は地方自治の問題
市長発言の矛盾は「外交・国防は国の専管事項である」という点に尽きる。
違う。確かに外交・国防は国の専管事項だが、新たな基地を置く場合、立地自治体にとって、すぐれて地方自治の問題である。
新たな基地建設により、近隣集落への距離、騒音、生活や自然環境、周辺農地への影響はないか、畜産は継続できるのか。何より基地配備は近隣集落のみならず石垣島、ひいては八重山全体の問題であり、市民はどう考えるか、民意こそが問われる。当然、これらは外交・防衛でなく、地方自治の問題である。
地方自治体には住民の生命や財産、人権や生活を守る責務がある。地域住民の意見を無視して基地を建設するのは地方自治や民主主義の破壊だ。
逆の立場に立って考えるとわかりやすい。国は事が地方自治にかかる問題だからこそ市議会と市長、二元代表双方の判断を待っている。国策を理由に無理やり配備できるとは認識していない。
だから、与那国町で住民投票に持ち込まれても静観した。石垣市で今後、住民投票となった場合も同様だろう。
ところが中山市長は、この住民投票についても「国防や安全保障に関することなのでそぐわない」「多い少ないで判断するような性質のものではない」と言う。市民は国策に口を挟むなという認識は明らかな誤りだ。
整理する。市長は民意を示すのに「そぐわない市民」の代表にすぎない。ならば国の専管事項を理由とする限り、市長判断の根拠はなく、正当性もない。
市長が判断できる根拠は、地方自治の課題だからである。であれば、市民の意見は最も重要視されなければならない。それをせず、全権委任を受けたように判断できると考えるのは論理破綻であり、「選民思想」である。
市民の意見がそぐわないなら、市長判断もそぐわない。市民は国策に口を挟むなと言うなら、市長も口を挟めない。これがものの道理である。
そもそも市長も市議らも、自衛隊配備を争点とする選挙を経ておらず何ら市民の付託を受けていない。
■民意明らかにするチャンス
地方自治の問題は、主権者たる市民こそ判断すべきである。特に賛否が分かれる場合は、これを争点とする選挙や住民投票で民意が示される。
石垣市自治基本条例は「市政に係る重要事項について住民投票実施を請求できる」と規定している。その解釈明示も10月に入ってのこと。「後出し」の感がぬぐえず、不実のそしりを免れない。
住民投票実施に至るハードルは高いが、民意を明らかにする絶好のチャンスであり、手続きにかかるべきだ。
市が予定する公聴会は何ら法的根拠を持たない。単に市長判断を演出するための茶番にすぎない。
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