Category: 社説
だんだん姿を消す山野の草木や花々
■多種多様な八重山の植物相
私たちの住む八重山は、亜熱帯地域特有の個性的で美しい自然を誇っているが、生活の近代化、国内海外との急激で頻繁な交流や日常の利便性に固執するあまり、多くのものが失われつつある。特に、身の回りの営みを彩ってきたごくありふれた草や木が、いつの間にか静かに姿を消しつつあるのは、憂慮すべきことであろう。
沖縄県がまとめた「沖縄県の絶滅の恐れのある野生生物」(レッドデータおきなわ)(2001年発行)によると、日本本土と沖縄の植物相は「十平方キロメートル当たりの種数で琉球列島が4.5に対し日本本土が0.1となる。単位面積当たりで琉球列島は日本本土の45倍も種数が多くなっている」との分析がなされ、琉球列島の植物相は、種数が豊富な、きわめて特異な地域である、と報告されている。
また、海洋によって隔絶された島嶼(しょ)環境と亜熱帯・海洋性気候によって多種多様な植物相が創り出されているが、逆に、島嶼という閉鎖的な環境に置かれているため、急激な開発、外来植物の侵入、マニアの採取行為による撹乱(かくらん)等によって急速に破壊されつつある、と慨嘆している。
こういう憂慮すべき現状を、私たちは手をこまねいて見ているだけではいけない。例えば、数十年前までは、川平や於茂登岳ふもとなどの山中に深紅の花びらが咲き誇っていたサキシマツツジや、西表島の山林で華やかに群生していたナリヤランの可憐な花を見かけなくなって久しい。庭先や道ばた、裏山などでごく普通に見かけたツダマ(ジュズダマ)やサルカケ(サルカケミカン)、フビルィ(ツルグミ)、ダシキ(シマミサオノキ)などもあまりお目にかかれなくなった。
食用、薬用、漁具、遊具など日常の生活に大きく役立っていた草木は、文化財としての意義も大きく、開発や外来種の侵入によって失われていく現状を承知しておく必要がある。
■古謡に歌われた草木
八重山のゆんた・じらばや節歌には四季折々多くの植物が歌われている。
なさまやぬよ ぞうなんが なさま家の門前に
むりくばなば いびとぅし むりく花(マツリカ、チャーヌハナ)を植え付けて みやるびやーぬ とぅんでぃに 乙女
かばさきーば さしとぅーし 香ばしい木(九年母みかん)を挿し植えて
この「なさまやゆんた」には、ジャスミン属のむりく花と九年母を織り込みながら、若者たちのほほえましい恋模様を歌っている。
三線に乗せて歌われる節歌にも多くの植物が登場している。おなじみの「鷲ぬ鳥節」は大あこうに巣をかけて元日のあさまだき東天に向かって悠然と飛び立つ鷲の親子が歌われているし、「月夜浜節」は綿花を摘んで機を織り貢布に仕立てる女性たちの姿を取り上げている。ブー(カラムシ)、ヌーパン(カワラヨモギ)などに加え、タブ木や樫の木などの高木も八重山歌の世界には歌われている。
■「ゆんた・じらば植物園」の意義
全国各地に「万葉植物園」が整備され、万葉集で歌われた植物を栽培展示していることをご存じの方も多いと思う。沖縄では、本部町にある海洋博記念公園に「おもろ植物園」が整備され、「おもろさうし」に詠まれた22種の植物を間近に見ることができる。
八重山でも「ゆんた・じらば植物園」を行政・民間の連携で整備できないものか。大きな施設は不用だ。公園の一角で市民の手で育てても良いし、学校、道路沿い、運動公園内、新石垣空港の施設内でも可能だ。
大人はもちろんのこと、未来を担う子どもたちが、八重山歌の素晴らしさと豊かな植物相の一端に触れることによって、地域文化へ親しむ教育的な効果も期待できよう。