12月
19日
2009

八重山古典民謡研究に大きな一歩

Category: 社説



「精選八重山古典民謡集」を発刊

■八重山古典民謡は民衆の共有物
 當山善堂氏が2007年の5月から本紙に週1回連載してきた「―よくわかる新しい解釈―校合 八重山古典民謡」が「精選八重山古典民謡集(1)」として発刊されたのは、連載1年後の2008年5月のことである。発刊以来、本書は、八重山古典民謡実演者、愛好家のみならず研究者から大きな支持を得て、このほど第2集が上梓された。

 本書刊行の意図について、第1集の序文で、「八重山古典民謡は、八重山の美しい風土とあたかもその反対給付であるかのような厳しい自然環境や過酷な歴史状況の中で、八重山びとの不屈の精神、豊かな詩情および外来文化を受容する柔軟な感性とが融合して成ったものである。よって八重山古典民謡は(中略)特定の人に帰属せしめられるものではなく、八重山の民衆の共有物として、あるいは八重山の社会的な産物として位置づけられるべきものであると考える」と立ち位置を明確にしている。

 著者の當山氏は、八重山民謡の研究者であると同時に、八重山古典民謡保存会の師範として、舞踊の地方など自らも舞台に立ちながら多くの後進の指導に当たってきた実演家でもある。これまで、研究者と実演家両方の立場からまとめられた研究書は皆無と言っても良く、本書の刊行は画期的な成果といえよう。
 第1集には「赤馬節」など32曲を取り上げ、第2集には「目出度節」をはじめ39曲について詳細な語彙(い)の解釈および解説を附し、全ての曲をCDに収録してある。

■中舌音の習得に最適な方法
 本書の大きな特徴は、八重山古典民謡の優れた研究書であると同時に実演家として音楽的な視点で私たちの先達が生み育ててきた歌三線を研究しているところにある。
 特に、言語学の立場からのみでなく、歌う立場での「中舌音」に関する研究成果が自らの体験を交えた懇切丁寧な解説として実を結び、多くの人が恩恵を受けるものと思う。とりわけ中舌音の表記を「う段中心」、「い段中心」二つの方法で表記し、口形にまで言及していることは、失われつつある「音」としての八重山言葉を後世に残す上で、大きな成果といえよう。

■工工四歌詞表記の研究を
 八重山古典民謡の工工四および歌詞は、明治17年の喜舎場英整編「八重山歌工工四」を最初に、その後安室孫師編「八重山島歌集」などを経て、これらの集大成とも言うべき大濱安伴「声楽譜附八重山古典民謡工工四」まで多くの著作が刊行されている。しかし、工工四に限って言うと、口伝、転記あるいは後世の思いこみや勝手な解釈によって書き換えが行われたり、同じ歌で歌詞の統一が図られていない部分が散見される。明らかな間違いと思われる個所も少なくない。
 八重山古典民謡といっても、沖縄本島の言葉や大和言葉も使われているので一概に断じることはできないが、明確に中舌音で歌うべきと思われるのに中舌音で表記されていない部分や、同じ歌の中でも「ひきちり」「引き連り」(黒島口説)などと表記が違ったりしている個所も少なくない。

 過去の偉大な研究者が書いているからとか、昔からそう伝えられているからと古い文献や伝承を金科玉条とせず、研究の結果明確な根拠を示すことが可能な個所については、先達の優れた成果を基礎にしつつ、歌意、表記等を見直すべき時期に来ているのではないか。
 當山善堂氏は、さらに第3巻、第4巻の発刊に取り組み、未収録の節歌や早弾きを収録すべく研究に余念がない、と聞く。全4巻が完結したら、八重山古典民謡研究の大きな業績として高く評価されるものと期待される。

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