8月
22日
2009

八重山言葉音(おと)のライブラリーを

Category: 社説 Tag: 方言



たたかわねば言語は死んでゆく

■八重山言葉が消えていく
まず若い人たちに[質問]を。次のヤイマムニ(八重山言葉)の意味は何でしょうか。また正しく発音してください。
「イナチィキィ」「ターング」「フダルィ」「ニカフク」「プゾー」
[答え]「イナチィキィ」稲などを搗(つ)く杵(きね)、「ターング」は手桶、「フダルィ」は柄杓(ひしゃく)、「ニカフク」は穀物を乾燥させるムシロ、「プゾー」は煙草入れ。
 近年までどこの家庭でもどの世代でも日常生活で普段使っていたこうしたヤイマムニが、恐るべき勢いで失われていく。
 テレビ、ラジオ、インターネットなどマスメディアの普及による急速な標準語化が地域の言葉を萎縮させ、片隅へ追いやっている。このままでは、日本全国の言葉が、島々村々の香りを失い、北海道から与那国島まで、個性を失ったよどみのない標準語でおおいつくされるかも知れない。

■琉球語も消えゆくのか
 琉球語は日本語の中でも特異な位置にあり、アイヌ語とともに日本語とは別の言語である、との学説もあるほど独自性が強い。さらに琉球語は、きわめて地域ごとの特性がはなはだしい。首里の言葉と今帰仁の言葉、宮古の言葉、八重山の言葉は、同じ琉球語に属するが、相互に会話できるとはとても思えない。

 八重山だけをとってみても、島々村々に独特のイントネーションがあり、単語が違うことも多い。竹富の言葉と黒島の言葉、波照間の言葉、与那国の言葉でお互いにスムーズな会話は困難である。
 しかしながら、この地球上で八重山方言を話せるのは、4万5000人の人々と出身者を加えたとしてもせいぜい10万人足らずであろう。地球の人口68億1000万人の0.000015%にすぎない。だからこそ貴重であり、この言葉が失われることを私たちは、阻止しなければならない。

■私たちにできること
 方言の危機については、本紙で何度も取り上げてきたが、ただ手をこまねいていていいのか、私たちにできることはないのだろうか。専門書によると、100万人以上の話者がいる言語は、100年間は安泰だという。琉球語の話者はそれ以上いるから、少なくとも1世紀は大丈夫だろうと思われるが、果たしてそうだろうか。
 「言語は死にゆくものであり、ひとびとがその保持のためにたたかわねば、驚くべき規模で死んでいく」(「絶滅していく言語を救うために」)。八重山言葉を失われた言語にしないために、私たちはたたかわなければならないのである。専門家による地道な研究によって八重山言葉の解明に大きな成果が積み重ねられていることはご承知のとおりである。また、9月18日を「しまくとぅばの日」に定め、さまざまな取り組みを行っていることも評価に値する。
 だが、もっとも、危機に瀕しているのは、「音」としてのヤイマムニであろう。文字情報は形に残りやすいが、話し言葉は消えていけば元には戻らない。録音機材の性能が日進月歩で充実し、軽量化している今日、古老の話される古い言葉を録音して残す活動をしようではないか。行政、研究者、一般の人々が協力して「八重山言葉音(おと)のライブラリー」を作ってはどうだろうか。大きなハコ物はいらない。

 インターネットでアクセスできる「首里・那覇方言音声データベース」という優れた先進事例がある。手始めに言葉を音として体系的に残し、若い世代が活用できるようにしようではないか。若い世代に伝えられない言葉は消えてゆく運命にあるのだ。

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